毒だこれ

毒ですよ。吐いても大して楽にならない。
なんで俺たちは進んで毒を飲んでいるんだ。
これは殺菌とか燃料とかに使うべきものであって、どう考えても飲み物じゃねえよ。馬鹿なのか?
誰も彼も気が狂っています。
ここまでして暮らしていかなきゃならない理由はなんだ。
理由など、考えること自体が馬鹿げているに違いない。


朝、玄関先で蝉が死んでいました。
そんな季節かと思いながら廊下を進むと、足元で別の蝉がもがき出しました。
階段を降りれば、そこには蝉の惨殺死体が転がっています。下手人はおそらく猫でしょう。
エントランスから外へ出た私の腹に、死にかけの蝉が止まって弱々しく鳴き始めます。うんざりだ。

だいたい無闇にでかいんですよあいつらは。
小蝿の慎ましさを見習えないものか?
いくら手のひら大とはいえ、日常見かける虫けらの中では最大サイズに近い。
身体もでかければ声もでかい。
声というのは違うかもしれないが、そんなことはどうでも良いんですよ。とにかくうるさい。

慣れたからなんとも思わないという方もいるでしょうが、しかし彼らは異常なのです。
たとえば冬になると何処からともなく湧き出して、いっせいに叫び出す生物の一群が、突如として出現したら嫌でしょう。

単に慣れというだけで見過ごしてはならない。
所構わず入り込み、動物の生き血を吸う連中も、他種族に飼い慣らされて、愛想よく飯を要求する生き物も、考えてみれば意味がわからない。
体長の数十倍くらいある物体を地表に乱立し、延々とその中を動き回っている奴らはもっと不気味です。

本当にわからない。
私はどうしてこんな布の塊の中にいる?
このあと数時間にわたってこの世から切り離されることを、なんで当然のごとく捉えているのか?
こうしている間にも私たちは、茫漠たる暗黒の中を凄まじい速度で回転しながら、得体のしれない光球の周りに纏わりついている。
神はいないので、天球をこのように飾り立てたのは彼ではないので、したがって全てが無意味だ。
生存と、陰電子の一時的な励起状態との間に、果たしてどれほどの差異があるというんでしょうか?

まあ何だっていいです。
下手の考え休むに似たり、一生寝ていたほうが遥かにましだ。
不本意にも目覚める羽目になったなら、まずは味噌汁でも飲みましょう。